New 2020/02/26 Now On Sale! PV Update

English Japanese

――ちなみに最初の携帯電話向けアプリだった『勇者死す。』はどれぐらいダウンロードされたのでしょう?

桝田氏:具体的な数字はよく知らないけど、悪くはなかったと聞いているよ。ただ、あのころって携帯電話からスマートフォンへと切り替わっている時期だったから、すでに携帯電話は持ってない人とかがいたんだよね。

――なるほど、たしかに2009年ごろはもうそういう時期ですよね。

桝田氏:っていうことは、新しいもの好きの人たちはもう『勇者死す。』ができなかったんだよ。そういう意味ではもったいないよね。だって、『勇者死す。』って新しいもの好きの人が興味を持ってくれそうなタイプのゲームだもん。


――アーリーアダプター向きなのに。

桝田氏:明らかになんかやばそうな匂いプンプンするじゃない。これクソゲーかもみたいな。

――そんなことはないと思いますけど、他に類を見ないゲームですしね。

桝田氏:あと思い出すのが、まだ『勇者死す。』の開発中にファミ通を読んでいたら鈴木みそさんが“始まったらどんどん弱くなっていくRPGはどうだ”とか、“ゲームが始まって1時間ぐらいで主人公が死んじゃうのはどうだ”とかマンガに書いていたことがあったんだよね。

そのマンガ自体は「なんちゃってね」っていうオチだったんですけど、「いや、まさに今そういうゲームを作っているんだけど……」みたいな気持ちになったこともあったね。


――マンガで笑いのネタにされているようなアイデアのゲームを、いま作っている自分(笑)。

桝田氏:そう(笑)。でもね、こういうネタって誰でも思いつくんだよ。思いつくんだけど、それをゲームとしてまとめられるかっていうとできなくて、「なんちゃってね」で普通は終わり。だって、わざわざそんな苦しいゲームをお金払ってまでやりたくないよね。

だから、そういうアイデアをエンターテインメントとしてお金を払ってまで遊びたくなるものするためには、加工の仕方というか、ゲームデザインを思いつけるかどうかが重要になる。『勇者死す。』だって相当ストイックというか、マゾだからな。


――たしかに。勝手なイメージですが、桝田さんのゲームは『俺屍』にしろ『リンダキューブ』にしろ、どれもストイックな世界観でありゲームデザインですよね。

桝田氏:それは、それらの前に手がけた『天外魔境II 卍MARU』を2~3年、さらにその前には『桃太郎伝説』もやっぱり2~3年やっていて、王道のRPGと言えるシステムとかシナリオの組み方を5年くらいやっていたからで、ようするに飽きちゃったんだよね。

――その反動が。

桝田氏:飽きちゃったっていうか……、あれだね、ユーザーに対して適度なストレスをかけていくっていうこともエンターテインメントなんじゃないかって考えるようになって。そういうのは、かなり大人の発想だよね。魚の苦い肝とかを美味いという、そういう感覚。


――苦さの良さを感じる大人向けという。

桝田氏:そうそう。そういうゲームが現れ始めるのも僕のころからだよね。お子様向けじゃない、中高生すら最初から相手にしないっていうゲームを作り始めるのは。

そういう大人向けなマニアックなネタというか、ストイックなネタを思いついていったんだけど、『天外魔境』シリーズは広井王子さんで、『桃太郎伝説』はさくまあきらさんといったように、それらの作品は彼らの名前で売っているブランドなわけで、僕が面白いと思った“大人向けなアイデア”を彼らのゲームで使うなんてことは考えられなかったんだよ。

なので、やってみたいアイデアが溜まっていくんだよね。『天外魔境 ZIRIA』を作ったあと、アイデアがたっぷり溜まったあとぐらいにちょうど広告代理店の会社を辞めたこともあって、そういう大人向けなゲームを作るようになっていった。ちなみに『天外魔境ZIRIA』とか『桃太郎伝説』とか『METAL MAX』とかって僕はギャラをもらってないんだよ。

――そうなんですか!?

桝田氏:まだ広告代理店の会社員だったから残業代だけ。


――ああー、なるほど……。

桝田氏:そう。会社員としてゲーム開発の現場に行ってお手伝いしていた。さくまさんとか広井さんとか、彼らがやっているのは当時メジャーであった子ども向けの市場だったり、週刊少年ジャンプを読んでいるメイン層の市場だったりで、広井さんはもうちょっと上を対象にしていたけど、それでもやっぱり10代から20代の前半の若い人たちをターゲットするような商売だったんだよね。

それを間近で見ていた僕は広告代理店を辞めて独立するときに、そこの層というか、そこの市場では勝負しないようにしようと思ったんだよね。同じ土俵に上がるのは得策じゃないと思った。

ゲームを作っていて発売日が近いところで同じジャンルのゲームがぶつかったりしたら気まずいしね。ぶつかるにしても全然ターゲット層が違う、そういうものを作るほうが良いなって思ったんだよ。

まとめると、10万~20万本が確実に売れるマーケティングのほうが、僕にとっては正解なんだよ。メジャーな市場に向けて出して、当たれば100万本だけど、当たらなかったらスカスカというのより、王道ではないものを好きになってくれるお客さんが10万人いそうだとか、もしかしたら20万人ぐらいはいるのかもとか、そういう計算が立つ市場を狙ったほうが僕にとっては無難だったんだよね。


――戦略的に勝てる道へ。

桝田氏:そう。『リンダキューブ』も『俺屍』も『勇者死す。』もそうだけど、別に突飛なものとか奇をてらったとかではなくて、そっちのほうが僕にとっては安全だったからなんだよ。

――ユーザーから見ると挑戦の多い大胆なゲームに見えるのに、ご本人は安全策だったと言われるとすごく面白いですね。

桝田氏:うん。でも考え方としてもよくあると思うんだよね。メジャーな市場にリスクを背負って大きなお金をかけて勝負していくよりも、うちはこの町内で一番おいしい豆腐屋さんになれたらいいんだっていうような。

――それでも、シナリオをちゃんとゲームシステムに落としこんで一本のゲームにして、10万~20万人に刺さっているっていうのも、なかなかできることじゃないと思います。

桝田氏:ただまあ、それはあれだよ。『桃太郎伝説』にしても『天外魔境』にしても、当時は大きな市場を相手にしてやっていたんだけど、僕にとってはそれも初めてだったの。なにしろ『天外魔境Ⅱ 卍MARU』のときに初めてシナリオ書かなきゃいけなくて、シナリオの書き方の本とかを読んだぐらいだったから。

そういう王道な作品のマーケティングを、これだけお金をかけたら確実にこれだけ戻ってくるような組み方をするとか、確実に多くの人が喜んでくれるシナリオの展開とか、確実にこの4人を出しておけば誰かに思い入れを持ってもらえるような典型的なパーティーの構成とか、そういう“外さない”メジャーなものの作り方を3~4年やっていたわけで。

そうすると、メジャーな考えとは逆の市場展開というのも同時に想定できるようになるんだよ。こうやると意外と手堅く20万~30万本いけるんじゃないかっていう僕なりの予想ができてきて、それを試してみたいっていうのがあったんだよね。 あと、あの頃からもう“将来は子どもが減ってしまうだろう”っていうのが目に見えていたんだよ。


――ゲームユーザーも子供が減り大人が遊ぶようになっていくだろうと。

桝田氏:そうそう。それはもう明らかだったんだよ。僕が『俺屍』を作った1999年頃ですら、ラノベを一番買っている層は30代になっていたから。ゲームも多分、3~4年遅れでそうなっていくんだろうなって。

――なるほど。

桝田氏:それに丸の内あたりのエリートビジネスマンな感じの人が朝の中央線で週刊初年ジャンプと日経を持っていたもん。

――ビジネスマンが週刊少年ジャンプと日経というアンバランスさ。

桝田氏:月曜日の朝にね。そのころはまだニュースとかを見るにしても携帯ではなかったから。

――今はみんなスマホを見ているから、パッと見はどんなコンテンツを見ているかわからなくなりましたよね。そういう時代の変化の兆しみたいなものを観察されていたんですね。

桝田氏:意外と緻密なんだよ、マーケ出身だからさ(笑)。

――本当ですね。王道RPGに関わられたことで、今の逆を行く土台ができて、その根拠になる考えもしっかり持っていて。

桝田氏:ランチェスター戦略ってあるでしょ。学生時代に読んだんだけど、新規で入っていく人は得意な狭いところでとりあえず1位を取ってから先を考えろみたいなこと。それこそ、町内で一番おいしい豆腐屋になるべきっていう話だよね。そこのお豆腐ブランドをちゃんと作ってから、厚揚げとか豆乳とかもやっていく。そうして隣の町内にも広げていく。

――一番のものがあるから、他のものもきっと美味しいんだろうって思ってもらえたり。

桝田氏:そうそう。ちなみに豆腐って法律があるの知ってる?

――豆腐に法律ですか?

桝田氏:豆腐ってナショナルメーカーがないのよ。それは法律で規制されているから。だから規模を広げていいのは、せいぜい県内までなんだよ。

――そんな法律があるなんて知らなかったです。豆腐の知識まで身につくインタビューに……(笑)。

桝田氏:まとめるの大変なんだよ。僕のインタビューは(笑)。

――(笑)。

※日本では、豆腐は日本人の日常に深く定着したポピュラーな食品ということで、中小企業の機会の確保のために分野調整法という法律によって大企業の参入が制限されている。

  page4  

TOP